大台ケ原は自動車で手軽に行けるが、それでは有り難みが薄いので、行くなら大杉谷からと思っていた。高校時代にワンゲル部長のI君が夏休みに行った話を聞いてうらやましく思って以来なので、47年越しの懸案?!ということになる。 5年前に、それまで10年ほど道が崩れて大杉谷が通れなかったのが、やっと通れるようになったと聞いて、その気になって宿やバスの予約までしたのだが台風が来て行けなかったことがある。今回11月中旬のシーズン終わり間近になってやっと実現できた。雨が多い山だし、小屋の混む季節はいやだし、公共交通機関の予約は必要だしで、なかなか思い立ってすぐ、とはいかない。
名古屋から紀勢線の特急ワイドビュー南紀1号で三瀬谷という駅まで行き、ここから登山口まで予約制のマイクロバスに乗るのが旅の始まり。帰りは大台ケ原からバスで降りて来れば、長い下りで足を痛めることもない。このバスに乗るのはだいたい同じ行程の人達だ。途中の登山センターで入山協力金1000円を払うともらえる大杉谷の焼印の入った
キーホルダー(ヒメシャラかヒノキ製)が良い記念になった。
発電所の脇から歩きだすと、いきなりこんな岩を削った鎖の手すり付きの道に出くわして驚くが、よく整備されているので落ち着いて通れば危なくはない。
向こう岸の高いところから落ちてくる千尋(せんぴろ)の滝。初日は冬型気圧配置なので寒さを覚悟したが、意外に穏やかな天候で、汗をかきながら登る。初日は標高差は少ないが、岩場のアップダウンがそこそこある。
吊橋もたくさん渡る。これは平等グラ吊橋。右手の断崖が、平等グラという大岩の一部だ。スケールの大きな景観が大杉谷の持ち味。
平等グラの全貌。でかいおむすび型の岩だ。高さ100m以上ありそうだ。大台ケ原周辺谷は
地質的には水成岩(砂岩、頁岩)にチャートがところどころ筋状に入り込んでいるというのが基本で、大杉谷は侵食されにくいチャートが崖や滝を作っているそうだが、さてこれはどんな岩でできているのか。
吊橋を渡って今夜の宿の「桃の木山の家」。昭和15年に近鉄(の前身)が登山道整備と合わせて作ったのが始まりだそうだ。たくさん泊まれそうだが食堂は小さめ。風呂もある。
朝はさすがに寒いので7時にゆっくりスタート。その日に大台ケ原を2時半か3時半に出るバスで帰るというのが一般的らしいが、僕らは大台ケ原でもう一泊するので急がなくていい。最も美しいという七ツ釜の滝。
深く透明な水と白い巨岩のコントラストが美しい。イワナがのんびり泳いでいた。堂倉の滝で大杉谷から離れて尾根を登り始める。大台ケ原山頂の日出ヶ岳まではここから900mほどの登り。途中、350m登って林道に出たところに粟谷小屋があり、宿泊もできる。
尾根の上部はシャクナゲがたくさん生えていて、5月下旬の盛りの頃は美しいそうだ。空が広くなり日出ヶ岳が近づく。やっと山頂、とも思うし、もう終わりかと惜しくもある。
日出ヶ岳山頂には木造の展望台が建っている。登ってきた方を振り返ると尾鷲あたりの熊野灘が見下ろせる。海に近い山なので雨も多い。きれいに整備された遊歩道をたどって大台ケ原駐車場に降り、上北山村売店で食事したり、ビジターセンターでゆっくりしてから宿に入った。「湯治館」というが、沸かし湯なのであまりのんびりできないが、食事はたいへん美味しかった。
翌朝は再び日出ヶ岳まで登ってから、正木ヶ原の枯れ木地帯を歩く。本来は針葉樹と苔に覆われた山だったのが、1959年の伊勢湾台風などで木が倒れ、乾燥が進んで笹原となり、針葉樹の森が回復できずにこのような景観になったそうだ(
看板)。自然のバランスは微妙だ。
最後はお約束の大蛇グラ。大台ケ原の穏やかな地形も端のところでは急な崖となっている。右手隣の岩壁ではクライマーの姿もあった。
2時半のバスで大和上市に降り、近鉄電車を乗り継いで、7時半に名古屋に戻った。スマホの発達で、時刻表のチェックや指定席を取るのも手元でできるようになり、公共交通機関の旅もずいぶん便利になった。