2014年6月1日日曜日

蓮華岳(大沢右俣)

シーズンも終わりに近づくこの季節、アルペンルートの東の出発点・扇沢を起点とするものの、機械力は使わずにすべて人力であがる(安上がりな)針ノ木岳が人気ルートとなる。今回は針ノ木雪渓を途中で逸れて、蓮華岳から真北に落ちる蓮華大沢右俣を登って滑った。2010年にイトーさんと扇沢で待ち合わせたものの、イトーさんは太郎(犬の)を連れてこの谷を登っていってしまった。今回はそれに倣ってみたが思った以上に急なコースだった。

扇沢からは板を担いで歩き出す。篭川の右岸を通る道を辿って堰堤が近づく辺りでスキーをはく。大沢小屋のあたりで、左手から大きな谷が合流する。これが蓮華大沢。18日25日28日とwebで記録を見て、だんだん条件がわるくなっているが、なんとかなりそうかなと、こちらを登ることにする。左図全体が大沢で、針ノ木雪渓はこの写真の更に右側外にある。図の真ん中あたりで右に分かれるのが右俣。手前の広いところは平たく見えるが、ここで20度ぐらい。右俣に入ると30度、35度となり、稜線直下は40度ぐらいになる。
右俣にこれから取りかかるところでスキーアイゼンを取り付ける。雪がグサグサで、表面のデコボコも激しいのであまり効かない。
早めにスキーを担いで、アイゼン登高に切り替える。左図は、一つ前の図の奥のあたりで、雪の表面に点々と落石がある。周りのガケから落ちてくる訳だから、あまりのんびりしてはいられない。警戒が必要。また、滑るときにはスキーを痛める凶悪な敵なので、石の少ないところに目星をつけながら登る(探せば石のないところもありそう、という程度)。図ではスキーの先端の穴に紐を通してひきずっている。紐はカラビナでザックの肩紐にかける。これぐらいの長さが操作しやすい。肩の重荷が軽減され、風が強いときもあおられにくい、準備が楽という利点がある。逆に、雪がないところがあるとスキーを痛めるのと、トラバースが苦手なのが弱点。
だいぶ登って標高2400mぐらいのところで振り返ると、爺ヶ岳(右)がたおやかな曲線を描いている。真ん中にのぞいているのが鹿島槍。谷の側面のダケカンバが美しい。あと山頂まで400mほどだがここからが傾斜がきつくつらかった。雪がゆるく足の沈みが大きいので、少し傾斜が落ちたところで、シール+スキーアイゼンに戻して、稜線の登山道脇まで登り上げた。稜線の向こうで槍・穂高が迎えてくれる。今日は一番乗りみたいだ。
蓮華岳山頂にたどりついて一休みしていると、蝶がぴゅーっと飛んできて、首筋にとまって離れない。汗の水気と塩気に引かれている、といえば散文的だが、縁のある誰かのタマシイが会いに来てくれたのかもしれない、などと文学的なことも考える。(ウスバシロチョウというアゲハの仲間でした。ハネが半透明でとてもきれい。胴体は黄色い毛がたくさん生えていて寒さにも強そう。)山頂でiPhoneで撮ったパノラマをVRにしたものがこちら。(パノラマ写真だとイマイチ面白くないので、Pano2VRというソフトでこういう形にした。Flashを使っているのでiPad、iPhoneでは見られない。マウスかカーソルキーで移動。Shiftキーを押すと拡大、Controlキーで縮小。)風もなく展望の良い山頂でのんびりしながら、あの山この山と話がつきない。今日は黄砂が飛んでいるとのことで遠くはややかすんでいるが、まずまずの眺め。
蓮華岳は東西にはなだらかな山容だが南北は急峻だ。滑り始めるとあっというまに高度を落としていく。雪がグズグズなので気持ちよくはないが、ストップ雪というほどではない。次第に谷が狭まり、落石地帯に突入。右に左にと石の少ないところを選びながらチマチマ降りる。最後の方は石はなさそうだが、葉っぱや枝が落ちていて、スキーの下でガリッギリッと音を立てる。どれかは石だったかもしれない。恐れていたほどはスキーのソールにキズをつけずに滑り終えることができた(主観的評価)。
またスキーを担いで山道をぽくぽく歩いて降りる。見上げると柳の花が輝いている。こうして雪の世界と早春の緑の世界を何度も行き来できるのが、春の山スキーの楽しみのひとつである。扇沢から蓮華岳山頂まで標高差1400mだが、これは富士宮口から富士山頂までとほぼ同じ。標高が1000m低い分、空気が濃いので体は楽だが、大沢右俣を登ると富士山よりずっと急傾斜を味わえる。しかし甲斐犬太郎くんは良くがんばったな。(特に下り)