レンズ交換式カメラにおいては、レンズを取り付ける面とフィルム面(デジタルではCCD等の受光素子)との距離をフランジバックといい、カメラの形式によって様々な値になっている。歴史の古いライカなどの連動距離計カメラでは、フランジバックが短いのに対して、一眼レフでは、反射鏡が動くスペースが必要なため、フランジバックを長くしなければならず、レンズの方でいろいろ無理をして長いフランジバックを実現している。連動距離計カメラの方が、写りがいいと言われる理由の一つは、このような無理をしない素直な設計のレンズが使えるということがある。フランジバックの長いレンズを、フランジバックの短いボディーに付けるのは、ゲタをはかせてやればいいので簡単だが、逆はできない。このため、ライカなど連動距離計カメラのレンズが結ぶ像を、一眼レフで実際にファインダーで見ながら撮影することは、長い間叶わぬ夢だった。
昨今、ミラーレス一眼と言われるデジタルカメラが登場し、ミラーを使わずに直接CCDで像を観察しながら撮影するため、フランジバックを短くすることができ、実際ライカマウントよりもフランジバックが短いので、上記の夢が叶うことになった。しかし、先発のオリンパス、パナソニックが採用するmicro-4/3規格ではCCDが小さいので、35mmフィルムに比べて真ん中の半分ぐらいしか撮影できず、50mmレンズをつけても100mmレンズ相当の範囲しか写らないというので、イマイチであった。最近、SONYが作ったNEXシリーズでは、もう少しCCDが大きいので50mmレンズで75mmレンズ相当と、まだ許せる撮影範囲となった。ボディーもコンパクトで、小振りな連動距離計カメラのレンズが良く似合う。どれぐらい実際に使うかはやや疑問ながら、買ってみることにした。
上は、コシナ製28mm F3.5レンズ(Color-Skopar)、左はロシア製50mm F1.5レンズ(Jupiter-3)を、三晃精機製のアダプタを介して付けたところだが、なかなか良く似合う。アダプタを介してオールドレンズを付けるなどというのは、普通メーカーの想定範囲外なので操作性がわるいことが多いのだが、NEXには、ミノルタからソニーに引き継がれたαシステムのレンズもアダプタ経由で付けることができ、この場合もオールドレンズと同様に手動での焦点合わせになるため、このような使い方に対する操作性がよく練られていて大変快適なのがうれしい。ボタン一つで画面が拡大表示されてフォーカシングでき、シャッター半押しで全体像が表示され構図を調整してシャッターを押しきるという操作の流れがスムーズだ。(フォーカシングは絞り開放の方がしやすく、実際の露出時には撮影意図によっていろいろな程度に絞り込むのが普通で、一眼レフではこれが自動的に動作するようになっている。オールドレンズを使うときにはこれも手動で操作しなければならないが、F4ぐらいまでなら絞った状態でもフォーカシングできるのでそれほど不便ではない。)
これは、ロシア製の28mm F6(!)という暗いレンズ(Orion-15)だが、これぐらいになるとピントの合う範囲が広いので目測で距離目盛りを合わせれば充分だ。このレンズ、ビー玉をはめ込んだようなちっぽけなレンズで、見かけはパッとしないが、トポゴンタイプといわれる原理的に優秀な設計形式が幸いしてか、意外にいい写りをする(作例)。フィルムではF値の暗さのためにちょっと使いにくいのだが、デジタルではISO感度が融通無碍に変わってくれるので、何も不便はない。使っていて気がついたのだが、シャッター音がなかなかいい。従来の一眼レフのようにフォーカルプレーンシャッターなのだが、通常は開放していて、シャッターボタンを押すと一旦閉じてから短時間開いて露出し、また開放という動作をする。この複雑な動作がちょっと高級感のある(何か複雑なことをしていると思わせる)作動音につながっているのだろう。今後、エギザクタマウントレンズ用などレアなマウントアダプタも発売されるようで、しばらくは色々楽しめそうだ。